自分で噛んじゃう


手の甲がわの親指の付け根。前々からなのだが
娘はこの部分を吸ったり舐めたりしれので、少し
荒れてボロボロとしちゃっている。


そこが酷くなり血がにじんでいる。
「噛んじゃうの」悲しそうに、辛そうに奥さんが
教えてくれる。


そんな奥さんの心配をまったくよそに、無邪気に
コレ、と傷口を指差す娘。僕に知らせている。


「どうしたの?」聞いてみると、少しニコッと
した後に噛みだす。
慌てて「ダメ」と制止すると、それも楽しい
らしくニコニコ。


過剰に反応すると余計に噛んでしまうようだ。
困ったものだ。親を困らせたい時期なのかも。
それとも注意を惹きたいのか。


どうしたものか。本人もやはり痛いのか傷口を
気にする様子はある。その度にコレ、と僕の顔を
みるので、あまり大袈裟にならないように注意し、
「ダメだよ」と諭す。


娘に注意深く顔を見られている気がする。僕は
どんな顔をしていただろう。やはり奥さんと同じ
ように、悲しいような、困ったような、そんな
顔だろうか。


何となくは娘には伝わっているようだ。傷口は
気になるようだが、触ろうとして躊躇する姿を
見せ始めた。僕も諦めず、すかさず静かにダメと
諭すように言う。次第に躊躇して止めるように。


こちらが、「わー、ダメダメ!」と過剰に反応を
せずに、静かにダメだと言われたほうが面白く
ないし、本当にダメだと分かるようだ。


こちらも娘の気持ちは何となくは分かる。
ダメだと騒がれれば騒がれるほどムキになって
やっちゃうかも。困らせるのも面白いし。
痛いときって逆に触っちゃいたいこともある。


とはいえ、痛そうだし心配なんで、本当に止めて
下さい。頼みます。