踊らされる


まだまだ寒い。春はまだだろうか。今日は営業の外回りで
けっこう歩いて疲れてしまった。
家に帰る。愛する家族が待っている。疲れが吹き飛ぶ。


夕飯を食べる。娘が「ぱぱ あそんで」と呼んでいる。
なんて可愛いのだろう。遊んであげるよ。


しかし、なんで娘の後について部屋の中をグルグルと
走り回っているのだろう。食べたばかりなのに。
いつ終わるのか。娘も体力が付いたもんだ。終わらない。
ていうか飽きないのか? いやそれより目は回らないのか?
娘の三半規管は並外れて強いのだろうか。止まらない。


もちろん僕がグルグルと回る輪から抜けると怒られる。
泣きそうになって「ぱぱ あそんで!」て言われたら
無視できる訳がない。僕が戻った瞬間にニコニコとまた
回り出すんですけどね。演技ですか。


さすがに足がつらい。目も回る。娘の三半規管はいったい
何で出来ているのか。


輪から抜け座り込んだ瞬間に、娘がグルグルと回るのに
合わせて手拍子を叩いてみた。こういう変わったことを
してみると子どもは誤魔化されるもんだ。なんだかんだで
まだまだ子どもだ。しばらくは1人で回っていてもらった。


これまでか。さすがに長い時間は誤魔化せなかった。
結局、輪に戻ってグルグルと娘について回る。


だんだんと疲れてボーッとしてきた。今日はいつもより
仕事で歩いて疲れたのになぁ。なんて考えてしまう。
ちょっとネガティブに頭が向かい出した。


あれ、手拍子が聞こえる。


娘が正座をして座って、ニコニコ顔でこっちを向いている。
手拍子をしている。僕が部屋をグルグルと回るのに合わせて。


て、なんでオレが1人でグルグルと回ってるんだ。
膝から崩れ落ちた。横目に映る娘の顔は嬉しそう。
シテヤッタリという顔に見える。一体オレは何をしてるんだ。


家族って良いですね。
仕事のことを跡形もなく忘れさせてくれます。