ソファから落ちる

携帯電話が鳴る。奥さんからの着メロだ。
なんだろう、珍しい時間に。
なんか面白いことでもあったのだろうか。
はーい。のんきな声で電話に出る。


「どうしよう。みうちゃんがソファから
落っこちちゃった。大丈夫かな?」


えらく動揺している。
第一、事情も分からないのに大丈夫か
どうか聞かれても言葉に詰まってしまう。
大丈夫かどうかを聞きたいのはこっちの
ほうである。


頭が働かない。取りあえず今やっている
仕事のことを頭から閉め出してみよう。


今日はポリオの予防接種を打ちにいく
予定だったはず。予防接種といっても
ポリオの場合は注射ではなく、口から
飲むものらしい。


だいたい、ポリオとはよく分からないが
大抵はポリオウィルスにかかっても
何にもならないが、数百人から千人に
一人の割合で手足が麻痺を起こすんだ
そうだ。


区役所へ、その予防接種へ向かうため
準備をしている最中に、慌てていて
少し目を離してしまったのだそうだ。
違う部屋に上着を取りにいったらしい。


それが、あろうことか、みうちゃんが
ソファの上にいるときだった。
すぐに気付いたが、そのとき鈍い音と
一瞬の間を置いて、泣き声が聞えた
そうだ。


つまり、どうやって落ちたかは奥さん
も見ていないらしい。


しかし、ソファの上のみうちゃんから
目を離すなんて、普段の奥さんなら
ありえない。
人間、慌てているといかに冷静さを
失うかということか。


誰にでもそんなことはあるので、
一概に奥さんを責めれない。
僕だって、一瞬の判断を間違える
ことは全然ありうる。


さて、みうちゃんにすぐにかけ寄ると
「バカバカバカー」と奥さんを責める
ように怒って泣いていたらしい。


まずそこで一安心だ。
泣くってことは意識があるわけだし、
本当に痛くてしかたないようならば
怒る事もないだろう。
少し安心した。


ポリオの予防接種が終わった後も
少し電話で話したが、その後はもう
いつも通りだったらしい。


あっちこっち指をさして声を出したり
手を振ったり、全然いつも通りで
何でもなさそうだ。
よかったよかった。


いくら注意していたとしても、一度も
怪我や事故がないなんてことは考え
られない。


きっと何度かはあるとして、今回の
ように大したことがなくてラッキーで
あった。


とにかく、少し様子を見るが、どうも
頭から落ちたわけではなさそうだ。
よかった。
とにかく気を付けなくては、僕も。