ツイている日


ツイてない日というのはあるもんだ。


朝から熱したフライパンの柄の金属部分を思いきり
ギュッと掴み。しかも、フライパンの置き場所に
一瞬考えちゃったもんだから激しく火傷。
ヒリヒリヒリ。


久しぶりに水膨れができそうなまで火傷しました。
氷で冷やしている間に半透明の皮膚がぷっくらと
浮き上がり始めてました。


幸いにも、それでも懲りずに氷で冷やし続けて、
家を出るギリギリまで冷やしたお陰で、徐々には
腫れはひいて、昼ごろには水膨れはなくなりました。


やっぱ徹底的に冷やすに限りますね。今まで生きて
きた経験が役に立ちました。生きてて良かった。


そんなことよりも、ここまで生きてきた命が危機に
晒されました。一瞬、完全に事故ったかと覚悟を
させられてしまった。ツイてないにもほどがある。


雨が降ってきて濡れた路面。時間はまもなく夕方。
道路は少し混み始めてきた。


3車線の道路。まもなく5叉路の大きめの交差点。
真ん中の車線が渋滞になりつつある。右と左は
まだ流れている。


勝手知ったるいつもの道路。この交差点は右折車が
少ない。ここは右の車線で交差点を超え、次の
大きな交差点までに真ん中の車線に入るのが賢い。
真ん中は混みやすいのだ。


右の車線で交差点に差し掛かる。交差点をまたがって
長い列になってきた真ん中の車線を横目に交差点を
渡っている、そんな時だ、ありえないことが起こった。


完全に油断していた。予想外の出来事に無防備の
心はビックリ。頭は急にスローモーション。


そんな時、走馬灯のように思い出すのは、数日前の
課長の姿。高速道路の上で左の車線から飛び出て
きた車と接触した話。事故は大した事ないが、
上司への報告、本社への連絡、報告書の作成。


警察への連絡。出頭。相手とのやりとり。保険会社。
修理の見積もり。あれやこれや。


冷静に面倒そうだったなぁ。なんて考える。


交差点の真ん中。渋滞中の左側の真ん中の車線から
1台の車が顔を出したのだ。出し抜けに。


タイミング的に僕の前後に走る車が無かった。
きっと僕の存在に気付いていないのだろう。
「ぶつかる」そんなタイミングだ。そのまま車線に
アクセルを踏み込んで入ってきた。


咄嗟に急ブレーキ。幸いにも交差点の真ん中なので
右側が空いている。反射的にハンドルを切る。


スレスレで車体は右に傾き、接触せずに済んだ。
しかし、まだピンチは終わってなかった。


目の前の景色がまだ動いている。右折待ちで交差点で
止まっているダンプカーに向かって斜めに向かって
いるではないか。車の進行方向とタイヤの向きが
違っている。濡れた路面を横滑りしているのだ。


迫り来るダンプカーの影像に、ちょっと覚悟を
してしまい、体をこわ張らせる。ハンドルを強く
しっかりと握って衝撃に備える。


けど本当は動いているのはこちらなのでダンプの
運転手のほうが迫り来る物体に身をこわ張らせて
いたことでしょう。


奇跡的に最悪の事態は免れ、ダンプカーの目の前で
横向きに車は止まった。またもや接触を回避。
ちょっと格好いいなんて考える不埒な僕。


ふと、交差点の真ん中で凄い目立ってる気がして
恥ずかしくなる。僕は悪くなくて、むしろ被害者
なのだが、何となく居心地が悪い。そそくさと
体勢を立て直し元の車線に戻る。


幸い後続の車もなく、すんなりと戻る。感じたよりも
短い時間だったようだ、飛び出てきた車の姿が
まだ見えた。そんなに遠くない。


アドレナリンが出まくって頭に血が昇っていた
のだろう、思わず追いかける。しかし、追いつく
寸前に冷静に戻る。追いついてもどうしようもない。
結果として事故にならなかったし。


結局は逃げられた。睨むしか出来なかったが、
雨の中、見えているとは思えない。一瞬、車の中で
伸びをしている運転手の姿が見えた。


もしかして、今の顛末を全く気付いていないのでは
ないだろうか。それさえも疑わしい。なんてこった。


やりきれない気持ちを胸に、帰るしかなかった。
本当に咄嗟で危険なときって、クラクションなんて
鳴らせないものですね。


ツイてない日だなぁ。そんな思いで家に帰って
奥さんに今日の出来ごとを話す。


けれども奥さんからは、そんな状況だったのに
何にも怪我もなかったなんて「ツイていた」と。


確かにそうかもしれない。