はみがきの交換条件


「はみがきしようかー」
と言うと喜んで自分で磨いてくれてた娘。仕上げを
なかなかさせてくれないほどだったのに、何故だか急に
はみがきを拒否。歯ブラシを見ると逃げだす。


今までは、嫌がっても最後には自分で磨くか、磨かせて
くれていたのに、娘の逃亡劇は終わらない。無理やり
捕まえて磨こうとすると、口を真一文字、絶対に
開けようとしない。


何故にそんな急変なのですか。いい加減飽きたのかね。
歯を磨いたら寝なければいけないのが嫌なのかな。
いつも半分寝ながらも遊ぶ気満々である。眠くなるのは
歯を磨いたせいだとも思っているのだろうか。


本当に嫌がって磨いてくれない。奥さんも僕もお手上げで
泣きそうである。かといって、仕方がないでは済まない。
虫歯になってしまったらもっと大変だ。


力ずくで押してもどうにもならなそう。娘も強情さを
発揮して、なかなか折れない。埒が明かない。


ふと、思い付いた手は、歯を磨くことだ。僕が。


考えたら娘は僕と奥さんが歯を磨くところを見ていない。
娘のいない時に洗面所で磨いてしまうからだ。
もしかしたら、自分だけ磨かされている気がしている
のかもしれない。


歯ブラシを持ってきて、目の前で磨いてみる。途端に
娘の顔がパーッと輝いて、途方に暮れて娘の歯ブラシを
持ったまま座り込んだ奥さんから歯ブラシを奪う。


さっきまで逃げ回っていた歯ブラシを掴んで、嬉しそうに
自分で磨きだした。僕の真っ正面で。


一人で磨くのは嫌なんですかね。嬉しそうに目の前で
僕の真似をしています。やり方を見逃さないと凝視して。


ホッとして、仕上げをさせてもらおうとすると、
依然それは拒否。自分では磨くけど磨かせない。
逆に自分の歯を磨くのを止めるなと怒られる僕。


途方に暮れながら、口の中を唾液だらけで永遠と
向かい合って歯を磨き続ける。これまた埒が明かない。


手を休めると怒る。それでもダラダラとしていたら
娘は僕の歯ブラシを掴み、僕の歯を磨きだした。
まったく立場が逆である。仕上げをされている。
好きにして、とヤケクソ気味でされるがままに。
かなり磨かれた後に、娘の歯ブラシを掴むと、ようやく
仕上げをさせてくれた。


ていうか、同等じゃなきゃダメなんですか。しかも
こっちが先に受け入れないとダメらしい。


これから僕は、娘の歯を守るためとはいえ、娘から
はみがきの仕上げをされなきゃいけないんでしょうか。
歯を磨かれている間、何とも言えない敗北感と屈辱感を
味わうのだが、これは続くのだろうか。


パパは自分できちんと磨けるんだよ・・・。