読んで欲しいの?

「読み聞かせしてもいいんだよ」


お腹の子に向かって読み聞かせをしたい
という僕の日記を読んで、言ってくれた
奥さんの言葉だが、そんなことは分かっ
ている。
ただ、ただ、僕が照れくさいだけの話だ。


“地面の穴のなかに、ひとりのホビット
住んでいました。穴といっても、ミミズや
地虫などがたくさんいる、どぶくさい、
じめじめした、きたない穴ではありません。
(『ホビットの冒険』より)”


と奥さんのお腹に向かって、満面の笑みで
語りかけるのが照れるのだ。


最近はだいぶは馴れたが、お腹に向かって
話かけるだけでも、最初は照れて、なんて
話したらよいか分からなかったが、本を
読んで聞かせるとなると、更に照れる。



「私も読まなくても話が聞けるから楽だし」


確かにそうかも知れない。そんな後押しも
あって、試しにちょうど読んでいた本を
お腹に向かって読んでみることにした。


やっぱり照れるが、ここは意を決してやって
みる。


とはいえ、産まれる前の子どもには少々早い
内容の本だったのかもしれない。
いきなり児童書では照れるので、いま読んで
いた本にしたのだが。


『なぜこの店で買ってしまうのか―
ショッピングの科学』
というビジネス書だ。


ちょうど、こんな内容のくだりの部分だった。


子どもが買う可能性がある商品を子どもの
目に触れにくい場所にあったり、手の届か
ない場所にあったりする店がある。
子どもに配慮した陳列になっていない為に
子どもとその親に対する売り込みで損を
している店がある。
逆に、マクドナルドは子どもの心を掴み
成功しているが、それでも完璧ではない。
まだ、改善するポイントはある。


といった内容の部分だったと思う。
いくらウチの子でも少し早かっただろうか。
しかし、がっかりすることはない。
他の胎児でも理解できない子がほとんど
だろう。


ふざけ半分、軽い気持ちで「読み聞かせて」
みた。


なんと、とんでもなく反応した。
ボコボコと。
明らかに読んで聞かせると、呼応して
動き出す。しかもこっちに近付くように
動き、ママのお腹をいびつな形にしていた。


内容に興味があるのか、抑揚をつけて語り
かける声に反応しているのか、本の内容に
異論があるのかは分からなかったが、
読み聞かせは良いかもしれない、と僕に
思わせるには充分すぎる反応だった。


面白い。
これは本当に「ホビットの冒険」を読み
聞かせてみようかしら?