映画と小説


ロード・オブ・ザ・リング”の完成披露試写会に行って来た。
一般公開は3月2日から。やっとCMが流れ出したくらい。
この映画は1954年に刊行された小説「指輪物語」の映画版で、
3部作からなる超大作。


公開前なので、細かいストーリーに触れるのは止めるが、
(小説を読めば分かるんだけど)
感想をいち早く書き綴りたい。



この映画を観る前にパンフレットを入口でもらったのだが、
パンフレットを眺めていると、
「あぁ、僕は指輪物語が好きだったな〜」というのを思い出す。


中学生の頃に図書館から借りて、2回も3回も読んだのだが、
すでに細かいストーリは忘れている。
しかし登場人物の名前や土地の名前などには全て見覚えがある。


登場人物が多いし、物語の設定も細かいので、一見ややこしい、
隣の人はパンフレットを見て「難しそう〜」とつぶやいている。
そこは、原作のファンとしては心配なところ。
つまり、緻密な小説の世界が映画の枠に収まるかどうか、
省略しすぎて、原作の良さが伝わらないんじゃないか。


がっかりさせられた例でいえば、邦画ではあるが、
「リング」と「らせん」。
鈴木光二の原作は好きだったので、映画をみたが、
ただの“ホラー映画”に成り下がっていた。
原作の良さはそんなところじゃなかったはずで、
鈴木光二も監修に絡んでるはずなのに、期待はずれは大きかった。
それに「ループ」はやらないなんて・・・。


同じファンタジーとしては「ネバー・エンディング・ストーリー」も
原作の世界観は出ていなかったのではないだろうか。
中学生の時に原作の小説も映画も観たが、中学生ながらに思ったのは
「単なるおとぎ話になってしまった」ってことだった。
なによりドラゴンの名前が“フッフール”から“ファルコン”へと
安易な名前になったのが全てを物語っているようで気に食わなかった。



今回は「リング」「らせん」や「ネバー・エンディング・ストーリー」
以上に原作が好きで、嫌がおうにも期待してしまう作品。
また、前評判や全米での評価も良すぎるくらい良い。
もし期待しすぎて、がっかりするような出来であれば、
原作に抱く想いが壊されるのではないかと、恐怖さえ感じてきた。


なんでも、「指輪物語」は以前にアニメで映画化を試みられたが、
2/3の段階で断念された経緯もあるらしい。
超ベストセラーでファンタジーの原点ともいえる作品だから、
映画化の話が出るのは当然だろう。
しかし、実写では再現不可能なのでアニメでとの試み。
それさえも失敗している。
そして、今回は実写と最新の撮影技術とCGによっての完成となった。


期待と不安が入り混じって、上映前に気持ち悪くなってきた。
自分でも思ったより原作に思い入れがあったようだ。
中学時代のあらゆるものがフラッシュバックする。
あの頃の友人や生活の一部まで思い出して、それを壊されるのは堪らない
という思いになってきた。



2時間58分。



僕は最初の、小説でいえば“はじめに”にあたるような
物語が始まる前の部分。
“指輪”が主人公の手に入るまでの背景描写の映像ですでに涙ぐんでいた。


僕の中学時代は壊されるどころか、新たな息吹を与えられ、輝きだした。
あのころ考えていたことや、未来に抱く希望、漠然とした不安、
中学生という狭いテリトリーの外に対する憧れや、恐れ。
そして、いつも一緒にいた仲間。


あの頃の友人もこの映画を観るだろうか。
観てくれたらきっと、僕らのことを思い出すだろう。
僕のことを思い出すに違いない。
いや、この映画はきっと観てくれると思う。



ロード・オブ・ザ・リング」と「指輪物語」は全く違う作品だった。
もちろんストーリーは同じで、出てくるエピソードも原作を忠実に
再現しようとされており、予想以上の迫力になっている。


しかし、あたりまえのことだが、映画と小説は違う。
何日も掛かって読みきる文学作品と、
ほんの数時間、つきっきりで観る映画が一緒のはずがない。
小説を、ただ映像化しただけでは、いい映画になるわけがない。
観客に感動が与えられるわけがない。


ロード・オブ・ザ・リング」を観たときに僕の胸の中を揺るがした
感情は、「指輪物語」を読み終わったときの感情とは全く違うもの。
そういう意味では全く違う作品だった。
小説のじわじわと広がっていく世界観とは違い、
映画は終始、緊迫したストーリー展開とアクションで、画面に釘付けに
させられ、2時間58分が飛ぶように過ぎていった。


続きが1年後というのが罪ではあるが、観て損はさせない映画だと思う。


指輪物語」を読んでいない人も2時間58分にわたるアクションと
冒険、緊迫した壮大なストーリーは見ごたえがあると思う。


また「指輪物語」を読んだことのある人にとっては、この映画は
ノンフィクション映画になると思う。
ファンタジー映画なので、もちろんフィクションなのだが、
原作の世界を緻密に忠実に、そしてリアルに演出されてる様は、
まるで実際に存在した人物や出来事についての映画のようである。


ひとえに監督をはじめスタッフやキャストのすべて、
主題歌を歌ったエンヤや小道具の担当すべての人が「指輪物語」のファン
であり、それぞれがそれぞれの役割で「指輪物語」を忠実に再現しようと
した結果ではないかと思う。
そこから、ファンタジーながらも強いリアリティを生んでいる。


指輪物語」のファンとしては、そんな「指輪物語」への愛情によって
作られた作品を涙なしには観ることはできないだろう。