似合わない眼鏡

娘が僕の眼鏡ケースを引っ張りだしてきたようだ。
あれ、眼鏡ケースが2つある。
1つは今かけている眼鏡のケース。もう1つは古いのだ。
あまりにも似合わなくて不評だった眼鏡。あれから
しばらくはコンタクト派だったなぁ。


2つの眼鏡ケースを並べて、両方をパカッと開けている。
2つを見比べてる。片方には眼鏡が入っている。
片方には入っていない。僕がかけているから。


はっ、と何かを閃いた様子の娘。目を輝かせて僕に
近付いてきた。少し嬉しそうに笑っている。


寝転んでいた僕からおもむろに眼鏡を奪っていった。
眼鏡ケースのほうへ戻ると。空のケースに眼鏡を入れ、
フタをパカッと閉じた。「いっしょ!」
謎のケースの使い方が分かった瞬間らしい。


しかし、娘の好奇心はそれだけでは終わらなかった。
古い眼鏡を取り出して、にやけながら近付いてくる。
寝転がった僕にまたがり、古い眼鏡を僕にかけようと
するではないか。てゆうか器用になったな。見事に
かけられた。


しかし、レンズが大きくて分厚い。けど、こっちの
眼鏡のほうが見やすいな、度が合ってるのかな。
なんて言いながら、娘と目を合わせると様子が変だ。


眼鏡をかけた瞬間は、やった、というような表情を
していたはずなのに、みるみる歪んでいって涙目に。
終いには声を殺しながら悔しそうに泣き出した。
僕に馬乗りになりながら、僕の胸に突っ伏して、
しくしくしくしくと。


どうしたどうしたどうした?
原因はこの古くて分厚い眼鏡だろう。
お店とかで僕にサングラスとか眼鏡をかけさせても
泣かないじゃん。笑いながら逃げてくだけじゃん。
何故にしくしく泣いてるの。


取りあえず眼鏡を取って大丈夫だよと声をかけても
すでに周りの声が聞こえないくらい没頭して声を
殺しながら泣いている。だんだん激しく。


仕方がないので、しばらく待つことに。奥さんに
取ってもらい、いつもの眼鏡に替える。しばらくすると
ようやく少し収まってきた。少し周りを見る余裕が
出来たらしい。僕の眼鏡が元に戻っていることに
ようやく気付いた。


やっと笑ってくれた。泣き疲れた顔に笑顔が。


推測ですが、興味本位でパパの眼鏡を変えてみたけど、
あまりにも似合わなかった。パパは変えた眼鏡で
あちこちを見ている。もしかしたら、この似合わない
眼鏡を普段から使うようになるんじゃないだろうか。
とんでもない事をしてしまった。このまま似合わない
眼鏡になったらどうしよう。


自分のやったことを後悔しての悔し泣きだったのでは
ないだろうか。僕にはそのように見えた。しかし、
子どもが悔し涙を見せるほど、1歳児が泣くほど
似合わない眼鏡って一体・・・。そんなにですか。